ニュースで「中東情勢」と聞いても、正直、自分の商売と結びつけて考える経営者は少ないかもしれません。遠い国の話、という感覚です。
でも、これがじわじわと、あなたの会社の利益を削っているとしたら、どうでしょう。
今日は、中小企業診断士の立場から、「中東で起きていることが、なぜ日本の中小企業の財布に効いてくるのか」を、できるだけ噛み砕いて整理してみます。
原油価格が、また上がっている
まず、事実の確認から。
2026年の春、中東情勢が緊迫したことで、原油価格(北海ブレント)が一時1バレル100ドルを超えました。その後いったん下がったものの、7月にも中東情勢や原油の輸送への懸念から、再び100ドルを上回る場面がありました。
つまり、「高い水準で、乱高下している」というのが今の状態です。落ち着いたかと思えば、また上がる。この読みにくさが、経営にとってはやっかいなんです。
「原油」は、あなたの商売の裏側に隠れている
「うちは石油を売ってるわけじゃないから関係ない」——そう思う方もいるはずです。
でも、原油はもっと広く、いろんなコストの”裏側”に潜んでいます。
たとえば、車を走らせれば燃料費がかかります。モノを運べば物流費がかかります。プラスチックや化学製品を使えば、その原材料費に原油価格が跳ね返ります。工場を動かせば、光熱費が上がります。
原油が上がるというのは、こういった燃料費・原材料費・物流費・光熱費が、まとめてじわじわ上がっていくということなんです。しかも、これらは「売上を上げる」努力とは無関係に、勝手に増えていくコスト。だからこそ、利益を静かに削っていく。ここが怖いところです。
具体的に、どんな業種が効いてくるのか
もう少し、身近な例で考えてみます。
燃料費の高騰に悩む運送業。ガソリン・軽油の値上がりが、そのまま利益を圧迫します。
原材料費の上昇に直面する飲食業。食材だけでなく、包装資材や光熱費まで上がり、じわじわ経営を追い込みます。
新商品の開発で活路を開きたい金属加工業。加工に使うエネルギーコストが上がる中で、どう付加価値を高めるかが問われます。
業種は違っても、共通しているのは「自分の努力ではコントロールしにくい外部要因で、コストが上がっている」という構図です。
国も、手をこまねいているわけではない
こういう状況を受けて、国も支援策を用意しています。
日本政策金融公庫の各支店や、全国の信用保証協会・商工会・商工会議所などに「特別相談窓口」が設置されていて、資金繰りの相談に乗ってくれます。
<中東・ウクライナ情勢・原油価格上昇等に関する特別相談窓口>
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/kokusai_josei/dl/madoguchi.pdf
支援の方向性は、大きく「守り」と「攻め」の2つに分けて考えると整理しやすいです。
まずは「守り」──資金繰りを支える2つの制度
当面の資金繰りを支えるのが、次の2つです。ここは名前だけ押さえておけば十分なので、簡潔に。
ひとつは「セーフティネット貸付」。日本政策金融公庫などの融資制度で、一時的に業況が悪化している事業者が、運転資金や設備資金を借り入れられます。一定の要件を満たせば、金利の優遇を受けられる場合もあります。燃料費の高騰に悩む運送業などが、当面の資金を確保する、といった使い方ができます。
もうひとつは「セーフティネット保証5号」。業況が悪化している指定業種の事業者が、信用保証協会の保証を受けて借入をしやすくする仕組みです。通常とは別枠の保証枠が使えるので、「既存の枠がいっぱいで追加の借入が難しい」というときの選択肢になります。追加の資金調達を検討している飲食業などに向いています。
どちらも「今の苦しさをしのぐ」ための守りの一手です。詳しい要件は制度ごとに細かく決まっているので、使えそうなら早めに窓口へ相談するのが得策です。
本題は「攻め」──補助金で乗り切る
ここからが、僕が特にお伝えしたい部分です。
借入による資金繰り対策(守り)と併せて注目したいのが、新たな事業展開や設備投資を支援する補助金(攻め)です。コスト増を「耐える」だけでなく、この機会に事業そのものを強くする、という発想です。
注目は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」。2026年6月29日に第1回公募が始まった、規模の大きな補助金です。
この補助金には3種類の枠があり、革新的な新製品・新サービスの開発、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出、さらには海外市場開拓(輸出)に向けた体制強化などが、支援の対象になります。
補助の規模は、次のとおりです。
- 補助上限額:事業枠・従業員規模・賃上げ特例の適用状況に応じて異なり、通常は最大7,000万円(賃上げ特例の適用で最大9,000万円)
- 補助率:事業枠・事業者規模・特例の適用状況に応じて、1/2 または 2/3
最大の9,000万円になるのは、新事業進出枠またはグローバル枠で、従業員が101人以上、かつ賃上げ特例を適用する場合です。賃上げ特例とは、一定水準以上の賃上げに取り組むことで、補助上限額が引き上げられる制度のこと。「新商品の開発で活路を開きたい金属加工業」のような、前向きな設備投資を考える事業者にとって、大きな後押しになります。
ただし、補助金には「条件」と「リスク」がある
ここは正直にお伝えしておきます。補助金は「もらって終わり」ではありません。
この補助金を使うには、補助事業終了後3〜5年の事業計画で、付加価値額の増加、一人当たり給与支給総額の増加、事業場内最低賃金など、定められた要件を満たす必要があります。
そして注意すべきは、賃上げに関する2つの要件を達成できなかった場合、補助金の一部または全額の返還義務が生じることがある、という点です。上限額を引き上げる「賃上げ特例」は魅力的ですが、その分、達成できなかったときのリスクも背負う。ここは、賃上げの実現可能性と天秤にかけて、慎重に判断すべきところです。
もうひとつ、今回の公募ならではのポイントを。中東情勢による原油由来製品・資材の供給途絶や高騰、それに伴う事業の中止などの影響を受けた事業者が、今後、市場の成長や生産性の向上が見込まれる分野へ進出する取組は、審査項目の一つである「政策面」で評価されます。つまり、まさに今回のようなコスト高の逆風を、前向きな挑戦のきっかけに変える事業者が、審査で有利になる設計になっているわけです。
いちばん怖いのは、「気づかないこと」
僕がこの話でいちばん伝えたいのは、制度の名前ではありません。
「知らないうちに、利益が削られていることに気づかないこと」——これがいちばん怖い、ということです。
中東情勢のような大きな話は、つい「自分には関係ない」と流してしまいます。でも、その影響は、燃料費や仕入れという形で、確実に手元に届いている。まずは「あ、うちのコスト増、これが一因かもしれない」と気づくこと。そこから、打てる手が見えてきます。
もし「最近、なんだか利益が出づらい」と感じているなら、一度、コストの内訳を眺めてみてください。原油由来のコストが、思ったより効いているかもしれません。そして、そのときには、国の相談窓口も、僕のような専門家も、ちゃんと選択肢としてあります。
一人で抱え込まず、使えるものは使っていきましょう。

