最近、ある世論調査を見て、正直、少しショックを受けました。
私はずっと、経済が動き、発展していくことが、人の暮らしを本当の意味で豊かにすると信じてきました。山あり谷ありでも、頑張った人がきちんと報われる。そこにこそ、働くことの手応えや、生きることの楽しさがあると思うからです。
でも、そう信じる私にとって、少し立ち止まって考えさせられる出来事がありました。この記事は、そこから私が考えたことを、忘れないうちに書き留めておくものです。少し長くなりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
お金を「配る」だけでは、人は谷から抜け出せない
世の中には、どうしても「山」や「谷」があり、谷がつらく感じることは事実です。
だからこそ政治は、困っている人を助ける施策に向かう。それ自体は、決して悪いことではありません。困っている人に手を差し伸べるのは、社会の大切な役割です。
ただ、私が引っかかったのは、そこで止まってしまっていいのか、ということでした。
例えば、お金がなくつらい(谷の場合)
お金を配って一時的に助けるだけでは、その人が「谷」にいる状態は変わりません。大切なのは、谷にいる人が、もう一度自分の力で山を登り直せること。そして登り直したことが、ちゃんと「手取りが増えた」と実感できること。
配るだけで終わるのではなく、力を身につけて自分で立ち上れるような仕組みをつくる。
もっというと「再チャレンジできる仕組みまで」をどうつくるか。私は、これがこれからの日本にとって、いちばん大切な問いだと思っています。
そういった、仕組みを日本の課題である「エネルギー問題」と一緒に考えてみました。
なぜ「エネルギー」なのか
その具体的な入口として、私が注目しているのが、エネルギーの分野です。
理由は、とてもシンプルです。
まず、エネルギーはこの国にとって必要不可欠で、需要が枯れることがない。日本はエネルギーの多くを海外に頼っていますから、自分たちでつくり出せる力を持つことは、国の安全保障そのものです。原子力、風力、バイオマス。どれも、国が生きていくうえで欠かせません。
そしてもう一つ。エネルギーは、人の技術がなければ成り立たない、技能の塊だということです。発電設備をつくり、動かし、点検し、直す。この一連の仕事は、高度な技能を必要とします。しかも、簡単には自動化できません。人にしかできない仕事が、そこにはたくさんあるのです。
つまりエネルギー分野は、「国にとって必要な仕事」と「人が身につけるべき技能」が、同時に存在する数少ない場所です。ここに雇用を生み、技能を育てることは、国の力を高めることと、一人ひとりの暮らしを良くすることを、同時に実現できる可能性を持っています。
私が大切にしたいのは「賃金とスキルの循環」
ここで、私がいちばん伝えたいことがあります。それは「循環」という考え方です。
昔、アメリカにニューディール政策というものがありました。国が仕事をつくって、失業した人に雇用を生む。有名な政策です。これ自体は良いことだと思います。
でも、それだけでは足りない、と私は考えています。「働いて給料を得る」だけで終わってしまえば、その仕事が終わった瞬間に、また元に戻ってしまうからです。ダムを一つ造り終えたら、それでおしまい。それでは、いつまでも国が仕事を出し続けなければならなくなります。
私が目指したいのは、こういう流れです。
まず、働いて賃金を得る。次に、その仕事の過程で技能が身につく。そして、身につけた技能を、次の仕事で活かせる。活かせるからこそ収入が上がり、その手応えが次の挑戦につながる。
この「賃金 → 技能 → 次に活かす → さらに賃金が上がる」という輪が、回り続けること。これこそが、頑張る人が報われる社会の土台だと思うのです。一度きりの仕事で終わらせず、ぐるぐると回していく。エネルギーは、この循環を回すための、格好の舞台になり得ると考えています。
国は、もう「入口」をつくり始めている
実は、この考え方に近い取り組みは、すでに国の政策として始まっています。
たとえば洋上風力発電の分野では、国が人材育成の事業を立ち上げ、大学や高等専門学校と産業界が一体となって、働く人がスキルを身につけ、別の産業から移ってこられるようにする仕組みづくりが進んでいます。高いところでの作業や、海の上での安全な作業を、国際的な認証つきで学べる訓練拠点も、少しずつ整備されています。
これはとても良い動きです。「働きながら、通用する技能を身につける」という、循環の入口の部分が、確かに形になり始めています。
でも、入口で終わってはいけない
ただ、ここに大きな落とし穴がある、と私は感じています。
今の仕組みは、「訓練する」「就職させる」という入口まではよくできている。けれども、その先が空白なのです。
身につけた技能を、次にどこで活かせるのか。一つの発電所が完成してしまったら、その人は次に何をすればいいのか。せっかく身につけた技能が、「その仕事があるあいだだけ」で終わってしまっては、意味がありません。
入口をつくることは、ゴールではなく、スタートです。大切なのは、その先を回し続けること。ここが、今いちばん足りていないところだと思います。
では、循環の「その先」を回すために、何が必要なのか。私は、現場で事業者の方々と接してきた経験から、大きく三つのことが必要だと考えています。
その1 技能を「別の分野に翻訳する」
一つ目は、技能を他の分野でも活かせるように「翻訳」してあげることです。
発電の仕事で身につく技能――高いところでの作業、電気設備の保守、機械の制御――は、そのままでは「発電の仕事があるときだけ使えるもの」で終わってしまいます。
でも、少し見方を変えれば、これらは他の分野でも通用します。送電網の保守、プラントの点検、建物の設備管理、災害時のインフラ復旧。こうした分野に技能を橋渡しできれば、一つの仕事が終わっても、次の仕事へと自然につながっていきます。「この技能は、あちらの現場でも使えますよ」と示してあげる。この橋渡しが、循環を止めないための第一歩です。
その2 地域のなかで、エネルギーを補い合う
二つ目が、今回いちばんお伝えしたいことです。地域のなかで、エネルギーを補い合う仕組みをつくることです。
「必要な場所で、必要な分を、その地域でまかなう」。地元でつくった電気を、地元で使う。これを、地域のエネルギーの地産地消と呼びます。実はこれも、「地域独立系統(マイクログリッド)」という名前で、国がすでに動かし始めている考え方です。
なぜ、これが良いのか。
一つは、効率が良いこと。電気は、遠くまで送れば送るほど、途中で失われる分が増えます。地元でつくって地元で使えば、この無駄が減ります。
もう一つ、これが私の「循環」の話とつながる部分です。地元の電気を地元でまかなえば、これまで地域の外に払っていた電気代が、地域の中で回るようになる。お金が外に流れ出さず、地域の中でぐるぐる回る。そのお金で、また地元の人を雇い、育てられる。人の技能が回り、お金も回る。二つの循環が、地域の中で重なるのです。
その3 余った電気を、都市・企業に「売る」
そして三つ目。地域で使い切れずに余った電気を、人の多いところ――たとえば関東のような大消費地――に送って、売ることです。
実は、電気をたくさんつくれる場所と、電気をたくさん使う場所は、ずれています。太陽光や風力に向いているのは、北海道や東北、九州といった地方。でも、電気を最も使うのは、首都圏です。つくれる場所と、使う場所が離れている。
だからこそ、地方でつくった電気を都市へ送るための、太い送電網の整備が欠かせません。これがなければ、地方でいくら発電しても、電気の行き場がなく、せっかくの電気を捨てざるを得ないことすらあるのです。
この送電網の整備は、数兆円と数十年をかける、まさに国家的な事業です。北海道から東京へ電気を送る海底ケーブルなど、具体的な計画がすでに動いています。費用も、その地方だけに背負わせるのではなく、便益が全国に及ぶからと、全国で支える仕組みが整えられつつあります。
一市民の私に、この巨大な送電網そのものを敷くことはできません。けれど、この国家的な整備を地方の側から後押しし、地域の発電と噛み合わせていくことは、現場に近い私たちにこそできる役割だと思っています。地域で自立し、余った分を都市へ届けて収入に変える。地域が閉じこもらず、外とつながって稼ぐ。そのための「動脈」が、この送電網なのです。
エネルギーの生産が経済を好循環にさせていく
ここまでお話ししてきたことを、整理します。
- まず、地域のなかでエネルギーを補い合う(すぐにでも着手できて、お金と技能が地域に落ちる)
- 余った電気を都市・企業へ送って売る(国家的な事業として、時間をかけて。地域が外で稼ぐ動脈になる)
- そして、それらを支えるのが、人にしかできない発電・保守・制御の技能を習得
- 稼いだお金で、経済を循環させ。こうした循環が螺旋階段のように、上がっていく
ただ、これらのことは、国だけでは進みません。現場をよく知る地方の市政と連携することが非常に重要となってきます。そうなってくると連携できる人材も非常に大切です。
人は感情で動きます。経済も感情で動きます。そこはまだまだ、AIの領域では解決できません。
話がそれたので、ここからはまた別途、記載します。
おわりに
大切なのは、力を身につけて、自分で登り直せること。そして、その努力が「手取りが増えた」と、はっきり実感できることです。実感できることろまで仕組化することが、本当に大切だと考えています。
エネルギーという、国にとっても人にとっても欠かせない分野を舞台に、「賃金とスキルの循環」を回していく。入口で終わらせず、その先までつなげていく。地域のなかで補い合い、余った力は企業や都市へ届け、経済も発展していく。
壮大な話に聞こえるかもしれません。でも、根っこにあるのは、とてもシンプルな願いです。頑張った人が、ちゃんと報われる仕組み作る。ただ、それだけです。
その循環の仕組みをいつか、私も作りたいと考えています。

