SNSを眺めていると、外国人政策をめぐって、ある主張をよく見かけます。「ルールを守らない外国人に困っている。だから、外国人の流入そのものを止めろ」というものです。
一見、シンプルで、これですべて解決するように見える。その気持ちは、私にもよくわかります。正直に言えば、私だって、外国人に頼らず日本人だけで経済が回るのが理想だと思っています。ルールを破る人がいるのは事実で、そこを厳格に取り締まるべきだという点にも、まったく異論はありません。
ただ、中小企業の現場を長く見てきた立場から、どうしても言っておきたいことがあります。「理想」と「そこへ至る手段・順序」は、分けて考えないといけない。順序を間違えると、私たち自身の生活が、真っ先に壊れるからです。
エッセンシャルワークは、すでに外国人が支えている
まず、現実を直視するところから始めます。
私たちの生活を根っこで支えている仕事——飲食、食品製造、建設、介護、農業・畜産、物流、自動車整備。こうしたエッセンシャルワーク(社会生活の維持に不可欠な仕事)の現場では、いま、特定技能などの在留資格を持つ外国人材が、すでに主力になっています。建設、外食、介護、製造業、宿泊、物流と、依存度は幅広い業界で急速に高まっています。
ここで、よくある誤解を解いておきたいと思います。「外国人は安い労働力だから使われているんだろう」というものです。これは事実と違います。特定技能などの制度では、日本人と同等以上の給与を支払うことが法律で義務づけられています。「外国人だから安く雇う」は、そもそも違法で、受け入れの要件を満たせません。
では、なぜ日本人で埋まらないのか。給与そのものより、勤務地が地方に多いこと、仕事がきついこと、そして若い世代がこうした業種を敬遠していること。構造的な理由が積み重なっているからです。きれいごとではなく、日本人だけでこれらの現場を回すのは、今すぐには難しい。それが実態です。
「一旦止めて議論する」ができない理由
この主張の最大の落とし穴は、「受け入れを止めれば、今の人数がキープされたまま、ゆっくり議論できる」という前提にあります。
ここが、決定的に違います。
外国人労働者の主力である特定技能などの在留資格には、在留期間の上限があります。たとえば特定技能1号は、通算で最長5年。つまり、毎月かなりの人数が、期限を迎えて帰国していきます。労働力は、常に入れ替わりながら維持されているのです。
ということは、新規の入口を止めた瞬間から、現場の労働力は減り始めます。止めて話し合っている「その間」に、現場は崩壊していく。議論のためのリセットボタンのつもりが、実際には、現場の血流を止めるスイッチになってしまうのです。
連鎖倒産は、「真面目な純日本企業」まで飲み込む
「外国人に頼っている企業なんて、潰れればいい」という声もあります。でも、経済はそんなふうに、都合よく切り離せません。
仮に、外国人材が急減して、末端のエッセンシャルワークの会社が倒産し始めたとします。すると、そこから食材や部品を仕入れていた会社——真面目な純日本企業まで、連鎖的に止まります。現代の経済は、すべてがつながっているからです。
結果として、スーパーから国産品が消え、工事は遅れ、介護の受け皿が失われる。その代償を、他でもない私たち日本人が、直接払わされることになります。
「外国人が抜けた穴は、その分、日本人が働けばいい」という意見もあります。しかし、いざ日本人がその仕事に就こうとしたときには、受け皿になるはずだった会社が、すでに倒産して消えています。加えて、都市と地方では働き手のいる場所が違い、必要とされる技能や経験もすぐには噛み合いません。人が足りない場所と、働ける人がいる場所は、そう簡単には一致しないのです。何より、国民を生活に困るところまで追い込む形で労働力を確保しようとする発想は、「国を守る」こととは正反対の結果しか生みません。
外国人材は、いつでも来てくれるわけではない
もう一つ、見落とされがちな点があります。それは、日本が今、人材を「選ぶ側」だとは限らない、ということです。
日本は、台湾や韓国といった国々と、外国人材の獲得を激しく競い合っています。ここで見落とせないのが、外国人材の来日は、思いつきで始まるものではない、という点です。彼らは来日の何か月も前から、日本の企業と雇用契約を結び、母国での手続きや日本語の学習、渡航費の準備を重ねて、来日に備えます。企業の側も、その人が来ることを前提に、人員計画を立てています。
もし、こうしてすでに受け入れが決まっている人まで、国が一方的に入国を止めてしまえば、企業と外国人材の間で交わされた雇用契約が、日本側の都合で反故になります。当てにしていた仕事を、直前で失う人が続出する。そうなれば「日本は、一度結んだ約束を平気で破る国だ」という評判が、送り出し国側に広がります。優秀な人材ほど、より条件がよく信頼できる他国へ流れていく。
そうなれば、いざ受け入れを再開しても、来てくれるのは他国に選ばれなかった人ばかり、という事態になりかねません。労働力の質は、今よりむしろ悪化します。来てほしいと思えばいつでも同じ人材に来てもらえる、という前提が、そもそも成り立たないのです。相手にも、国を選ぶ意思がある。私たちが選ぶのと同じように、選ばれる側でもあるのだということを、忘れてはいけません。
中小企業診断士として見てきた、人手不足の現実
ここまで制度の話をしてきましたが、私がこの問題にこだわるのは、抽象的な議論としてではありません。中小企業診断士として支援の現場に立つと、人手不足は、統計の数字ではなく、目の前の経営者の切実な悩みとして立ち現れます。
「求人を出しても、一人も応募が来ない」。「せっかく採用しても、すぐ辞めてしまう」。「人が足りなくて、受注を断っている」。地方の製造業や建設業、介護の現場を回ると、こうした声を本当に頻繁に聞きます。事業をたたむ理由が、赤字ではなく「人がいないから」という会社すら、珍しくありません。黒字なのに、後を継ぐ人も、現場を回す人もいなくて、廃業する。これが、いまの日本の地方経済で起きている現実です。
そういう経営者にとって、外国人材の受け入れは、きれいごとや理念の問題ではなく、事業を続けられるかどうかの生命線です。「受け入れを全部止めろ」という主張が、この現場にどれだけ重い意味を持つか。数字の外側にある、その切実さを、私は知っているつもりです。
だからこそ、感情論で入口を閉ざすのではなく、現場が回る仕組みを守りながら、不正だけを確実に排除していく。この両立が要る、と繰り返し言いたいのです。
止めるのではなく、「回しながら締める」
ここまで、極論を実行したときのリスクを見てきました。誤解しないでいただきたいのですが、私は「何でも受け入れろ」と言っているのではありません。
虚偽申請、資格外就労、不法残留、犯罪。こうした有害な行為をする人を、厳格に取り締まるべきなのは当然です。そこは、むしろ徹底してやるべきだと思っています。
私が言いたいのは、「全部止める」か「全部受け入れる」かの、ゼロか百かではない、ということです。やるべきことは、いくつもあって、それを同時並行で進めるしかありません。
入口できちんと選別する。ルールを破った人には、速やかに退場してもらう。日本の文化を尊重して真面目に働いている人には、残ってもらう。そして並行して、国内の給与や労働条件を改善し、AI化・自動化・省力化を進めて、少ない人手でも回る体制をつくっていく。そうやって、経済を回したまま、少しずつ蛇口を締めていく。この順序だけは、どうしても外せないのです。
高速道路を走っている車で、「点検するから、今すぐエンジンを切れ」と言えば、事故が起きます。動いているものには、動いているものなりの止め方がある。いま動いている経済を止めずに、より厳格なルールの施行を急ピッチで進める。地味でも、これが唯一、現実的な道だと私は考えています。
では、「現実的な改革」とは具体的に何か
ここまで「現実的に」「段階的に」と繰り返してきましたが、それが具体的に何を指すのか、曖昧なままでは意味がありません。私が必要だと考える改革を、はっきり挙げます。
ひとつは、入口の厳格化です。偽装難民の送還、不法滞在への厳罰化、虚偽申請や資格外就労の摘発を、実効性のある形で徹底する。制度の抜け穴を、ひとつずつ塞いでいく。
ふたつめは、事実上の移民化を防ぐ、制度設計そのものの見直しです。誰を、どの条件で、どれだけ受け入れるのか。在留資格ごとのルールと運用を、なし崩しにせず、きちんと設計し直す。
みっつめは、受け入れる以上、受け入れ企業の側にも責任を持たせる仕組みです。日本人と同等以上の賃金を守らせ、劣悪な労働環境や失踪を放置しない。ルールを守って適正に雇用する企業と、そうでない企業を、きちんと選別する。
よっつめが、並行して進める国内側の努力です。給与・労働条件の改善、そしてAI化・自動化・省力化。少ない人手でも回る体制を、補助金なども活用しながら着実につくっていく。ここは、まさに私が中小企業診断士として日々支援している領域です。
これらを「同時に」進める。どれか一つでは足りません。入口を締めるだけでは現場が枯れ、受け入れるだけでは不正がはびこる。両輪を、順序立てて回していくしかないのです。
適正な受け入れには、確かな手続きの支援が要る
そして、ここが行政書士としての立場から、どうしても付け加えたい点です。
「厳格に選別する」「ルールを守って受け入れる」と言葉で言うのは簡単ですが、現場の企業にとって、外国人材を適正に受け入れる手続きは、決して簡単ではありません。在留資格の要件確認、必要書類の作成、入管への申請、受け入れ後の各種届出。ひとつでも間違えれば、企業側が知らないうちにルール違反に問われることもあります。
不正を排除し、適正な受け入れだけを残す社会をつくるには、取り締まりを強化すると同時に、真面目に受け入れようとする企業が、正しく手続きを踏めるよう支える体制が不可欠です。厳格化と支援は、対立するものではなく、セットで初めて機能します。
制度を守ることと、事業を守ること。その両方を現場で支えるのが、私の仕事だと考えています。中小企業診断士として経営と人手不足の実情を理解し、行政書士として受け入れの手続きを正しく整える。この両面から、適正な外国人材の受け入れを支援していきたいと思っています。
極論ではなく、地に足のついた改革を
最後に、もう一つの危惧を書いておきます。
「全部止めろ」という極論が広まると、いま実際に進めようとしている「現実的な選別と規制の強化」までもが、「生ぬるい」と叩かれてしまう。本当に必要な、地に足のついた改革が前に進まなくなる。これが、私が一番恐れていることです。
向かいたい未来は、同じはずです。ルールが守られ、治安が保たれ、私たちの生活基盤が安定した日本。そこへ至るために必要なのは、自分の首を絞めるような極論ではありません。制度の抜け穴を塞ぎ、不法な行為を厳しく罰し、適正な受け入れを確実に運用していく。その実務的な締め付けと支援を、両輪で後押しすることではないでしょうか。
理想を実現するための手段と順序を、私たちは間違えてはいけない。現場を見てきた人間として、そう強く思っています。
※本記事は筆者の見解であり、特定の政党・政治家の主張を代弁するものではありません。外国人の受け入れ制度(在留資格・在留期間等)は改正が続いているため、具体的な制度内容は出入国在留管理庁など公的機関の最新情報をご確認ください。

